ブランド毀損と損害賠償|「へずまりゅう」やバイトテロは信用毀損罪!
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- 炎上対策
昨今、企業の間ではブランド戦略という言葉をよく聞きます。
ブランド戦略とは、消費者の満足を高め経験を蓄積する機能を果たし、商品・サービス選択の判断基準のひとつとなるようにプランを立てることです。 それは企業にとって競争優位に立つための重要な無形資産であり、長期的な収益の基盤構築に不可欠な要素です。
しかし、そのブランドが著しく傷つけられたらどうなるでしょうか?
ブランド毀損には、「模造品」「海賊版」の対策や「営業秘密」の保護強化を目的とする「不正競争防止法」、そして「信用毀損罪」や「名誉毀損罪」、「偽計業務妨害罪」などが適用されます。
ここでは、インターネットやSNSの発達から一般市民でも知らないうちに罪を犯す可能性がある「信用毀損罪」について解説いていきます。
それでは見ていきましょう。
信用毀損罪が適用される行為|嘘やうわさを流して罪に問われた事例
令和2年5月、YouTuber「へずまりゅう」が動画の再生回数を伸ばす目的で、購入したTシャツが偽物だと経営者に難癖をつけ、その様子を動画公開サイトに投稿し信用毀損罪」で逮捕されました。
この逮捕は、大阪市中央区西心斎橋の衣料品店で有名ブランドTシャツを購入後。そのTシャツを持って男性店主に「これ偽物でしょ!」などと罵声を浴びせて返品を迫りました。
その様子を撮影して店の業務を妨害したとして「威力業務妨害」が問われ、その後動画をYouTubeに投稿して店のブランドイメージを毀損したとして、信用毀損罪が問われました。
では、信用毀損罪はどんな犯罪なのでしょうか?
よく似た名称の「名誉毀損罪」どはどこが違うのでしょうか?
ここからは、「へずまりゅう」の事例を通して信用毀損罪が適用される要素やその罰則。
そしてその他の信用毀損罪の事例、また類似する犯罪との違い、さらには罪に問われた場合の対処法について述べていきます。
それでは、信用毀損罪とはどのような犯罪なのかを確認しましょう。
信用毀損罪の法的根拠と罰則
信用毀損罪は、刑法第233条前段に定められている犯罪です。
刑法第233条前段では、「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」と定められています。
また、信用毀損罪は、現実に信用毀損による効果が生じていない場合でも、人の信用を害するおそれのある虚偽の風説を流布することで成立します。
「虚偽の風説」とは
「虚偽の風説」とは、客観的な真実ではないうわさや情報のことです。
いわゆるデマやガセネタと呼ばれるものなどが該当します。
虚偽の風説と認められるのは、客観的な真実ではない事実に限られます。
その内容が真実であれば虚偽の風説にはあたりません。
たとえ、加害者が虚偽だと思い込んでいても、実はその内容が真実であれば信用毀損罪には問われないことになります。
「流布」とは
「流布」とは、不特定または多数の人に「話題」を広める行為を指します。
話題を広める行為は、口頭・広告・貼り紙だけでなくインターネットの掲示板やSNSへの投稿といった方法も該当します。
また、「へずまりゅう」の事例のように、動画公開サイトへの投稿も、不特定または多数のユーザーが閲覧可能であるので流布とみなされます。
ここで注意しなければいけないのは、SNSの投稿に関してです。
「虚偽の風説」に関する投稿を見たユーザーが2次共有(他のユーザーに共有)する行為。
また、「虚偽の風説」の投稿に対してコメント機能を利用して書きこみをすることでも、虚偽の風説を不特定あるいは多数の人に広めたとして「流布」に該当する可能性が大いにあります。
安易なシェアやコメントは控えたほうが賢明です。
「偽計」とは
「偽計」とは、他人を欺く行為です。
人の錯誤や不知を利用することも偽計です。
「信用」とは
信用毀損罪でいう「信用」とは、経済的な信用能力を指します。
他人から人格などを信頼されるといったような、一般的な「あの人は信用がある」といった信用とは異なります。
信用毀損罪における「信用」が指し示すのは、支払い能力や、商品・サービスの品質などです。
「へずまりゅう」の事例では、アパレル店が販売していたTシャツが偽物だと「嘘」の情報を流すことが、多くの人に『偽物を販売している店舗だ』という評価を与え、経済面における社会の信頼を低下させたという点が、信用毀損にあたります。
信用毀損罪の成立要件
信用毀損罪が成立するためには、一定の要件を満たさなければなりません。
虚偽の情報であること
信用毀損罪が成立するためには、加害者が流布した情報が『虚偽』であることが必要です。
流布した情報が真実であれば信用毀損罪は成立しません。
「へずまりゅう」の事例では、『あの店は偽ブランド品を販売している』という情報を流し、実際に客足が遠のき売り上げが激減しても、実際に偽ブランド品を販売していれば信用毀損罪には問われません。
加害者が虚偽の情報であると認識していること
信用毀損罪は、故意犯です。
故意犯とは、自らの行為の犯罪性を自覚した上で行う犯罪。またそれを犯す人を指します。
つまり、ある犯罪において、行為の結果について認識し、かつ、そうした結果が起こるであろうことを認識し実行すること、又は、その実行者のことを言います。
ですから、たとえ流布された情報が客観的な真実ではなくとも、加害者が、真実だと信じ込んでいた場合は犯罪が成立しません。
ただし、真実だと思っていたと弁明すれば罪に問われないものではありません。
もし実際に信用毀損罪に問われた場合は、なぜ真実だと信じるように至ったのかという点を深く追及されます。
たとえば、「もしかすると真実ではないのかもしれない」という認識があるときは、未必の故意として信用毀損罪が成立する場合があります。
未必の故意とは、結果の発生が不確実であるが、発生するかもしれないと予見し、かつ、発生することを容認する意思のことを言います。
経済的な信用を低下させるおそれがあること
信用毀損罪が保護しているのは、個人や法人がもつ経済的な信用です。
虚偽の情報などによって経済的な信用を侵すおそれがある場合にのみ成立するため、経済的信用につながらない被害が生じた場合では、信用毀損罪は成立しません。
また、信用毀損罪は経済面における社会的信用が低落するおそれがある場合に成立するものであり、実際に信用が低落する結果が生じたかどうかは問題ではありません。
虚偽の情報に大衆が踊らされることなく、社会的信用に全く傷がつかなかったとしても、そのおそれのある行為があれば信用毀損罪が成立する可能性があります。
信用毀損罪の事例と損害賠償
では、実際に信用毀損罪が成立し、罪に問われた事例を確認してみましょう。
バイトテロの事例
SNSの利用者が増加した10年ほど前、飲食店などのアルバイトが「奇行」を行い、その動画を投稿する、いわゆる「バイトテロ」や「バカッター」が社会問題になりました。
ピザチェーン店「ドミノ・ピザ」でアルバイト男性が、飲料のシェイクを作る際に使用されるヘラを舐めるという動画を投稿拡散しました。
さらにカレーのCoCo壱番屋のアルバイトAが、他のアルバイトBの賄い飯にアルバイトA自身の陰毛らしきものを振りかけるという動画を投稿し拡散されました。
このようなバイトテロ行為は、店舗に対する偽計業務妨害罪(刑法233条、3年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金)に該当します。さらに、民法では飲食店に生じた営業停止による逸失利益、信頼回復措置のための費用、そして信用やブランドの毀損に対する莫大な損害賠償請求も受けなければなりません。
過去には、バイトテロを起こしたアルバイトらに対して約1300万円の損害賠償を求める訴訟もありました。
ジュースに異物が混入していたと虚偽の申告をした事例
この事件は、加害者がコンビニエンスストアで購入したオレンジジュースに家庭用洗剤を注入し、その上で警察官に『ジュースに異物が混入していた』と虚偽の申告をし、警察がマスコミにその情報を公開したというものです。
コンビニエンスストア側は、異物が混入した粗悪なジュースを販売しているという経済的信用を侵されたことになります。
元来、信用毀損罪が保護する「信用」とは、人や法人の支払い能力や支払い意思に対する社会的な信頼であると解釈されていましたが、この事例では『販売される商品の品質に対する社会的な信頼」も含むと判示されました(最高裁 平成15年3月11日)。
通販サイトに虚偽の低評価を投稿した事例
健康食品の販売会社が大手通販サイトを利用して販売しているサプリメントについて、実は商品を購入・使用したことがないのに『飲みにくかった』とコメントし、5段階評価で最低の評価をつけた女性が、信用毀損罪に問われました。
この女性は、いわゆる『やらせレビュー』を含む仕事仲介サイトの登録者で、競合会社の役員から依頼を受けて虚偽のコメントと最低評価を投稿しました。
この事例では、実際に虚偽の投稿をした女性は不起訴処分となりましたが、女性にレビューを依頼した会社役員は有罪となり、20万円の罰金が科せられました。
信用毀損罪と類似する罪
信用毀損罪と混同されるブランド毀損には、偽計業務妨害罪や名誉毀損罪があげられますが、どのような点が異なるのでしょうか。
偽計業務妨害罪との違い
偽計業務妨害罪は、信用毀損罪と同じく刑法第233条に規定されている犯罪です。
信用毀損罪と偽計業務妨害罪は、同じ手段を利用したうえで「信用を害する」のか、それとも「業務を妨害する」のかに違いがあります。
経済的な信用ではなく「正常な業務の遂行」が妨害された場合には、偽計業務妨害罪が成立します。
なお、信用毀損罪と偽計業務妨害罪は、同時に成立する場合もある犯罪です。
たとえば、SNSで特定の商品の品質をおとしめるような虚偽内容を投稿した場合、投稿した時点で信用を害することを意図しているので信用毀損罪が成立し、さらにその対応に時間が費やされた結果、企業の正常な業務が害されれば、偽計業務妨害罪も成立します。
名誉毀損罪との違い
名誉毀損罪は、刑法第230条に規定された犯罪です。公然と事実を摘示(要点をかいつまんで示すこと、 またあばくこと)し、人の名誉を毀損した場合に成立します。
名誉毀損罪の保護する利益は、人や法人がもつ「社会的な評価」です。経済的な信用能力ではなく、広く社会から受ける評価という点で信用毀損罪とは異なります。
また、信用毀損罪は情報が虚偽である場合に限り成立しますが、名誉毀損罪は摘示した事実の真否は問題となりません。
たとえ摘示したものが真実であっても、公然と摘示することで他人の社会的評価をおとしめるおそれがあれば、名誉毀損罪が成立します。
信用毀損罪に問われたときの対応方法
まず確認しなければならないのが、信用毀損罪は「親告罪」にあたらないことです。
親告罪とは、検察官が起訴する際に被害者による告訴を必要する犯罪のことを指します。
信用毀損罪と類似している名誉毀損罪は親告罪ですので、被害者が告訴しない、またはすでに提出した告訴状を取り下げるといった行為をすれば罪に問われません。
しかし、信用毀損罪は非親告罪にあたるため、たとえ被害者の告訴がなくても検察官の判断次第で起訴に踏み切る場合があります。
信用毀損罪に問われるおそれがある場合は、弁護士に相談し対策を講じる必要があります。
弁護士に相談して示談成立を目指す
信用毀損罪は非親告罪なので、被害者が警察に被害届を提出し警察に発覚した場合には事件化される可能性があります。
信用毀損罪に問われる可能性がある場合は、まずインターネット掲示板やSNSなどの投稿を削除するなど、信用毀損の原因にあたる状況を解消したうえで、直ちに弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士は状況を整理したうえで、どのような対応をとるべきなのかをアドバイスしてくれます。
被害者に対しては、弁護士が代理人として示談交渉を進めることが可能です。
謝罪と賠償を尽くすことで、起訴を回避できる可能性もあります。
無罪を主張する場合も弁護士のサポートは必須
信用毀損罪は行為者が虚偽であると認識していたことを必要とする、故意犯です。
真実であると誤認していたり、未必の故意もない場合は故意が否定されるため、信用毀損罪は成立しません。
ただし、実際に真実だと誤認していて無罪を主張しても、単に『虚偽だとは思っていなかった』と述べるだけでは十分ではありません。
真実だと誤認した確実な理由や的確な資料や根拠が必要です。
弁護士に相談することで、真実だと誤認していことを証明できる証拠になるのはどういうものなのか、そのような証拠を収集するにはどのようにするのか、また取り調べに対応するにはどうするべきかなどといったアドバイスを受けることができます。
まとめ
信用毀損罪は、ブランド毀損の中でも経済的信用を害する、または害するおそれのある犯罪です。
インターネット掲示板やSNSが普及した昨今では、思いがけず罪に問われるおそれもあります。
もし、信用毀損罪に問われてしまった際には、直ちに弁護士に相談して解決に向けたサポートを受けることをおすすめします。
ご自身の行為が信用毀損罪にあたるのか不安を感じている。または、相手から信用毀損罪にあたると指摘されていて逮捕される可能性があるのではと不安を抱えている場合も弁護士に相談することをおすすめします。